意思決定のレンズモデル

―経営者は、何を見て判断しているのか―

はじめに

経営者の判断は、
しばしば「直感」「経験」「勘」といった言葉で語られる。

しかし、それらの言葉は、
判断がどのように行われているのかを
十分に説明してはいない。

SmallBiz経営学では、
経営者の意思決定を
「レンズを通して世界を見ている行為」として捉える。

本ページでは、
この意思決定のレンズモデルについて整理する。

なぜ、判断は説明しにくいのか

経営判断が説明しにくい理由は、
判断そのものが不可視だからではない。

問題は、
判断が複数の視点の重なりとして行われている点にある。

経営者は、ある状況を判断する際に、

  • 数字だけを見ているわけでもなく
  • 人の気持ちだけを見ているわけでもなく
  • 将来だけを見ているわけでもない

複数の視点を同時に用いながら、
一つの判断を下している。

この重なりを言語化しない限り、
判断は「勘」や「センス」として片づけられてしまう。

レンズという比喩

SmallBiz経営学では、
意思決定に用いられる視点を
レンズという比喩で表現する。

レンズとは、

  • 世界の見え方を決めるもの
  • 何に焦点が当たり、何がぼやけるかを左右するもの
  • 正解・不正解を決めるものではない

同じ状況であっても、
どのレンズを通して見るかによって、
判断は変わる。

レンズモデルは、
判断の違いを評価するための枠組みではなく、
判断の違いを説明するための枠組みである。

五つの意思決定レンズ

SmallBiz経営学では、
意思決定を捉えるために、
以下の五つのレンズを用いる。

1. 心理のレンズ

経営者自身の感情、動機、不安、期待といった
内面的要因に焦点を当てる視点。

判断は、常に経営者個人の心理状態と無縁ではない。

2. 組織のレンズ

組織の状態やメンバーとの関係性、
役割分担や暗黙の前提に着目する視点。

判断は、
個人の意思であると同時に、
組織の状況によって方向づけられる。

3. 関係性のレンズ

顧客、取引先、地域、パートナーなど、
外部との関係性に焦点を当てる視点。

契約条件だけでなく、
信頼や期待といった要素も判断に影響する。

4. 場所のレンズ

事業が行われている場所や文脈、
業界や地域特性といった
「どこで起きているか」に着目する視点。

同じ判断でも、
置かれた文脈が変われば意味は変わる。

5. 時間のレンズ

過去の選択、現在の制約、
将来への見通しといった
時間軸に着目する視点。

短期と長期のどちらに立つかによって、
判断の意味は大きく異なる。


レンズは「選ばれている」のではなく「使われている」

重要なのは、
経営者が意識的にレンズを選んでいるとは限らない点である。

多くの場合、
レンズは無自覚のうちに使われている。

SmallBiz経営学のレンズモデルは、
新しいレンズを与えるためのものではない。

すでに使っているレンズに気づくための枠組みである。

レンズモデルの射程と限界

意思決定のレンズモデルは、

  • 判断を正解に導くものではない
  • 優れた経営者を選別するものでもない
  • 行動を直接変える処方箋でもない

このモデルの役割は、
経営者の判断を説明可能にすることにある。

判断が説明できるようになることで、
経営は振り返りや共有の対象となる。

次の視点へ

SmallBiz経営学では、
存在構造と意思決定の積み重ねが、
どのように「成長」として表れるかを考える。

次のページでは、
成長を結果ではなく、
軌道として捉える考え方を整理する。