SmallBizとは何か
規模ではなく、経営の存在構造で捉える
はじめに
SmallBiz経営学における「SmallBiz」は、
一般に用いられる「スモールビジネス(小規模事業)」とは異なる。
ここで扱うSmallBizとは、
企業の大きさや制度上の区分ではなく、
経営が置かれている存在構造に着目して捉えられる経営状態を指す。
本ページでは、
SmallBizを「定義」するというよりも、
どのような構造条件のもとで生じる経営なのかを整理する。
「規模」で経営を捉えることの限界
大企業、中小企業、小規模事業者――
こうした区分は、制度設計や統計上は有用である。
しかし、実際の経営を説明するには、
必ずしも十分とは言えない。
同じ年商、同じ従業員規模であっても、
- 経営者が引き受けている意思決定の重さ
- 判断の自由度と制約
- 失敗や選択の影響範囲
は大きく異なる。
規模は、
経営の「外形」を示すことはできても、
経営の内側で何が起きているかまでは説明しない。
SmallBiz経営学は、
この説明の空白に向き合うための枠組みである。
SmallBizを捉えるための視点
SmallBiz経営学では、
SmallBizを「小さい企業」として定義しない。
代わりに、
経営が置かれている構造条件の組み合わせとして捉える。
以下に挙げる条件は、
SmallBizの「本質」や「優位性」を示すものではない。
あくまで、
経営を観察・理解するための構造的視点である。
SmallBizを構成する五つの構造条件
1. 資源制約
SmallBizの経営は、
人・資金・時間・情報といった資源制約を前提に行われる。
制約があること自体が問題なのではない。
重要なのは、
制約を前提として判断せざるを得ない状況にあるという点である。
2. 非分業性
SmallBizでは、
経営者の判断が分業によって希釈されにくい。
戦略的判断も、現場判断も、
最終的には同一人物に帰属する場合が多い。
その結果、
判断の一貫性と同時に、
判断の重さが経営者に集中する。
3. 埋め込み性
SmallBizの経営は、
顧客、地域、取引関係、人的ネットワークなどに
深く埋め込まれていることが多い。
選択の自由度は、
市場原理だけでなく、
関係性によっても制約される。
4. 価値観の近接
SmallBizでは、
経営者個人の価値観や人生観が、
経営判断に直接反映されやすい。
これは、
良い・悪いの問題ではない。
経営と個人の距離が近いという構造的特徴である。
5. 経路依存性
SmallBizの経営は、
過去の選択や偶然の出来事に強く影響される。
一度選んだ道が、
将来の選択肢を狭めることもあれば、
特定の強みを形成することもある。
現在の経営は、
常に過去の判断の延長線上にある。
構造条件として捉えるということ
これら五つの条件は、
すべてのSmallBizに同じ形で当てはまるわけではない。
また、
これらの条件が強いほど優れている、
という意味でもない。
重要なのは、
どの条件が、どの程度、どのように重なっているかである。
SmallBiz経営学は、
経営を評価するための枠組みではなく、
経営を説明するための枠組みである。
SmallBizという概念の射程
SmallBizという概念は、
必ずしも「小規模な企業」に限定されない。
年商が大きくても、
オーナー経営者が意思決定を一身に引き受け、
上記の構造条件が重なっている場合、
SmallBiz的な経営状況は生じうる。
逆に、
規模が小さくても、
これらの条件が当てはまらない場合もある。
SmallBizは、
規模区分ではなく、
経営の状態を捉えるための概念である。
次の視点へ
SmallBiz経営学は、
これらの存在構造を前提として、
経営者の意思決定をどのように捉えるかへと進む。
次のページでは、
SmallBiz経営学の全体構造と、
判断を中心に据える理由を整理する。